木工旋盤同好会通信
ウッドターニングに使う刃物研磨用グラインダーについて、アメリカと日本では認識にズレがあるようです。アメリカの有識者は直径8インチ(20cm)を使っています。刃物をフリーハンドで砥ぐ人は通常の半分ほどの低速回転数のいわゆるハーフスピード・グラインダーを使います。刃物を研磨用治具を使って砥ぐ場合は速いスピードのグラインダーを使うことも可能になりますが、フリーハンドでハイスピード・グラインダーで砥ぐことは焼損の危険が高いので避けて通るでしょう。一方、日本では直径20cmのハイスピード・グラインダーは工業用として販売されていますが、直径20cmの低速回転数のハーフスピード・グラインダーはほとんど販売されていません。(木工旋盤同好会では販売しています。)入手しやすいホームセンター等では直径15cmのハイスピード・グラインダーのみが販売されています。木工関連通販では直径20cmのハイスピード・グラインダーと、直径15cmのハーフスピード・グラインダーは販売されていますが、刃物を温度を上げずに軽快に研ぎなおす機能は残念ながら備わっていない製品なので、刃物研磨はいつになっても混沌としています。ホイールの直径は大きな方が刃物の温度を上げずに砥げます。スピードが遅いグラインダーには直径が大きなホイールが適します・・・軽快に、迅速に砥ぐためには。直径15cmのグラインダーにカバーを外して直径の大きなホイールをつける猛者もいます。危険ですし、廉いグラインダーは十分なパワーがないため、一定の回転数に達するまで時間がかかるだけでなく、研磨すると回転力が極端に落ちて砥ぐ力を落としてしまいます。まともなグライダーを入手しないと刃物砥ぎはイライラするばかりです。30万円の木工旋盤を買う人が3万円の刃物研磨用グラインダーを買わないのはどうしてなんでしょう?
代々木で行なわれた講習会でエリ・アヴィセラさんが5種類の深掘り用刃物(Deep Hollowing Tools)を実演して見せてくれました・・・Kelton Hollowers,Hamlet Little Brother,Andre Martel Hook Tools,Oneway Termite,Hunter Carbide Hollowing Tools・・・須田さんからエリ・アヴィセラさんへ。「一番のおすすめは何?」(いわゆるベスト・バイの商品はどれか)という質問があり、エリさんの回答を注目しました。エリさんはどれも一長一短があって、どれが最高とは回答してくれませんでした。一番のおすすめめは何?といった質問って購入者として共感できる一方で、実演者の立場から考えると、5種類の使い方、研ぎ方を見せたのだから、視聴者が各自判断する役回りなのでは・・・という見方もできるなと感じました。エリさんはどこかのメーカーに頼まれて特定の刃物を売るために実演販売にはるばるイスラエルから来ている訳ではないし、また、一方で私たちは利害を超えた経験豊富な人から適切な道具を教えてもらいたい。まず、どれから買えば間違えない選択になるか?。5種類の中から選ぶっていうのは選択肢がありすぎるのかもしれないし、粗削りにはこっち、仕上げ削りにはそっちという役割の違いもあるでしょう。プロにとってはどれも簡単に使えるのかもしれないし、我々にとってはどれもとっつき難い刃物に見えたのかもしれません。私はどうするかと云うと、Hamlet Little BrotherとOneway Termiteの2種は使っているし、Hunter Carbide Hollowing Toolsはまだ使ったことはありませんが別の会社のカーバイド材替刃のCi0やスーパーカット刃物など30~60度斜めにハイス材の円板状の刃が取付られているシアー・スクレーパー刃物の扱いやすさを経験しているので、砥ぎの不要なカーバイド材替刃の付いたシアー・スクレーパーであるHunter Toolsに触手が伸びてしまいます。経験に照らして性能の想像がつく・・・柳の下に2匹目のドジョウがいるような気がして。Kelton Hollowersはいわゆる「アリゾナの爪楊枝(4.8mm幅のカッター・チップ)」タイプの刃物で、スチアート・ツール、ジョン・ジョーダンなどのホローイング・ツールより小型のクリス・ストット(直径6mm)に近く、少し太い直径8mm(その上は13mm)の幅の狭いスクレーパータイプの刃物で、粗削りには適すると思います。
イスラエルのプロ・ウッドターナー、エリ・アヴィセラをゲストに迎えた東京、代々木での講習会での出来事。日本のプロ・ウッドターナーの須田さんがエリさんへ質問。「1本のボウル・ガウジを何年使いますか?」・・・。
エリさんの答えは「15年くらい」・・・。乾式グラインダーを使っても、短くなり過ぎて使えなくなるまで15年・・・。プロ・ウッドターナーは観察していると30分に1回は刃物を砥いで切れるよう実践しているのを長年見てきました。あんな風にしていれば刃物はすぐ短くなってしまいそうに感じていました。しかし、砥ぐのが上手い人は砥ぐ回数が多くても無駄に刃をすり減らしてはいないようです。
一方、下手な人の実例はグレーザーの赤ハンドルのボウル・ガウジを半年でチビて使えなくしてした人がいました。砥ぎが分けが分からずにやってしまったようです。私たちが心がけるに値するのは「減るから、研がない」といった行動では勿論ありません。刃物を常に切れるように保つことと、上達すれば10年以上もお気に入りのボウル・ガウジを使い続けることができるという教訓です。
エリさんはつい最近、友人から勧められてトルメックのT-7シャープニング・システムを使い始めたそうです。こうなると、1本のボウル・ガウジは何年使い続けることができるのでしょう?
初心者が削るのを観察していると、はじめはおっかなびっくりでちょっとづつしか削りません。しだいに慣れてくると大胆すぎるほど荒々しくなり、削っているのが木であることや刃物がまだ切れているのか、切れ止んでいるのかも気が付かないまま、上手く削れない部分があれば底が薄くなって抜けるまで攻めています。確かに、無我夢中になって削っているのはおもしろいと思いますが、これで満足でしょうか?希望する形や厚さに削ることや、刃物だけで納得できるほど木の表面をきれいに削る技術・・・それが仕上げ削り(シアー・スクレーピング)です。素人でもできることですので、普及させたいと思います。
通常のスクレーパーが刃物を直線刃物台にベタに載せて削るのに対し、シアー・スクレーピングをするには向って左側のコーナー部のみを刃物台に載せ、水平より30~60度傾けて、刃物台に接している側半分の切れ刃(細かいカエリ)で木表面の小波の頂点のような高い部分を角度をそのままに移動しながら除去します。糸状のくるくる丸まった切り屑が出るのが特徴で、これは木端を削った場合も木口を削った場合も同様の切り屑になります。商品としては、ハムレット社HCT416、BCT社スーパーカットやそのジュニア・シリーズが日本で好評です。
十四年前はスクレーパーが素人にとって主要な刃物でしたが、木と刃物の接触がガツン・ガツンと不快で粗削りを改善したいと思いました。また、仕上げ削りでも木端はキレイに削れても木口は上手く切れないのでサンデング(紙ヤスリで磨く。ペーパーがけをする修正)手間が大変でした。木を削る楽しさの後に、切削不良を修正するために粉だらけになる不愉快さが待っている状況でした。当時はリチャード・ラファンやデル・スタッブズといった先人たちのVHSビデオが発売されていて、テープが擦り切れるほど繰り返し見ました。ビデオではスクレーパー(平らな刃物の先端にヒゲ状のカエリを立てて刃物にしている)ではなくガウジ(丸棒に溝を掘った刃物。板を曲げた刃物もある)やチゼル(平らな板を両面から砥いで刃物にしている)を活用していて、本格的なウッドターニングにはガウジやスキュー・チゼル(先端が斜めになっているチゼルの意味)を活用するのが定石だと分かっても、砥ぎ方や使い方の理屈が一向に分からないので、突然に刃物が自分の意思と違って木に食い込んでしまうキャッチと呼ぶ事故に遭遇し、もうすぐ削り終えるというところでガウジやスキュー・チゼルの使用を敬遠したり、本来の使い方と違う砥ぎ方や使い方で苦手にしていました。
刃物は適切に砥げているか?
1999年(10年前)にアメリカのグレーザー社のボウル・ガウジ(bowl gouge,deep flute gouge)を入手したのをきっかけに苦手の克服が始まりました。現在、この刃物は社主が代わり製造・販売とも中断されて入手できない状態ですが、あらかじめ先端をサイド・グラインドという砥ぎ方で砥いで、届いた瞬間からよく切れるだけでなく、長切れする特殊鋼を使ってあり、鉛粒を詰めた軽合金製パイプハンドルとの相性もよく、刃物台に置いて、旋回する木材に触れた瞬間から安定して切削できるという風で、グレーザー社の直径13mmや16mmのボウル・ガウジが私たちの良きお手本となりました。社主のグレーザー氏は、材質に長切れする特殊鋼を採用しただけに留まらず、刃物を砥ぐためのグラインデング・ジグ(治具)やグラインデング・ホイール(砥石)についても技術的な紹介してくれましたので、その影響はカナダのワンウエー社の#2291や#2480といったグラインデング用品に反映され、世界中のウッドターナーに活用される定番商品になりました。2008年(1年前)には#2291と#2480の活用を容易にするラプターという型板(テンプレート)がアメリカのウッドターナーズ・カタログから発売され、適切な形状に短時間に砥ぎ直せる手段が一段と身近になりました。一方、スウエーデンのトルメック社から水研磨グラインダーが1973年より発売され、木工旋盤用ガウジ用のグラインデング・ジグも開発され、サイド・グラインド研磨をできるようになり、2007年に開発されたターニング・ツールセッター(TTS-100)の併用により、上述のラプターと同様にガウジのサイド・グラインドを誰でも短時間にできるようになりました。また、2009年にはトルメック社の上述のグラインデング・ジグを通常のハイスピード・グラインダーに流用できるようなアクセサリー(BGM-100)まで発売され、購入したボウル・ガウジ等を実際に使える形状にまで形を変更する時間を短く改善が続けられています。一方、日本のアマチュア・ウッドターナーは上記のような最適な道具が発売されても実際に見ることも試すこと機会もないからかもしれませんが、自己流や誰かのマネを続けて混沌としている人が多いようです。通常のハイス材の刃物では連続使用で30分で刃物は切れなくなりますので、
切れなくなった刃物では何をやっても上手く進みません。ガウジを苦手にしない工夫はグラインデング・ジグ等を併用して適切な形状で切れる刃物を常備する手段を確保することが第一です。
刃物台は傷ついていないか?
つぎに刃物台を見直してみましょう。ガウジで安定して木を削るには刃物台なしにはできません。刃物を刃物台上を滑らせて木を削るのに、刃物台上に傷や凹凸があればスムーズに刃物を操作することは適いません。ヤスリを使って傷や凹凸を除去し、途中でひっかからないいように蝋などを塗り、使用しない間に錆ないように保管時には防錆油を塗布しておきましょう。刃物台を使用するときは、切削する箇所になるべく近くに刃物台を移動して固定し、刃物のベベル(研削面、シノギ)が木地の切削面にフィットするような高さに刃物台の高さを調節してください。切り屑の形状や連続性を観察すると、刃が切れているかや切削面が良好か否かを判別できます。螺旋状にねじれた切り屑がでているときは、木端でも木口でも良好な切削面が続いている証ですが、粉が出ているようなら刃物は切れなくなっている印です。
刃物を刃物台上でどう支えているか?
ガウジという刃物の特徴は、刃物台に接する部分の形状が丸棒やプラス円弧になっていることで、比較的スムーズに動かせる一方で、刃物の水平軸回りの角度は刃物を握っている人次第だという点です。初心者では夢中になっているので、刃物に刻まれた溝(フルートと呼ぶ)が真上になっている場合を見かけます。これではスクレーパー(前述のカエリで切る刃物)と変わりがありません。残念ながら、刃物台と刃物の接地点が直上ならまだいいのですが、ずれてしまったときは、突如としてキャッチ(刃が木地に食い込んでしまう事故)してしまいます。とがった突っかえ棒を旋回する木に当てているのと変わりがありません。突っかえ棒ではなく、連なった切れ刃に沿って連続的に木がはがれて流れて行くようにするには、水平軸回りの角度を30~60度の適当な角度で保持したまま、刃物を水平方向に移動しなければなりません。注意を要するのは、削り始めと削り終わりで、前者では削る厚さが薄過ぎれば切れ止んでしまうし、厚過ぎれば刃物が木地に食い込んでしまい怖い思いをするでしょうし、ベベル(切れ刃を含む研削面、シノギ)が旋回する木地に支えられていなければ刃物を安定した軌道で維持できません。遠心力で刃物は自分の意思と違って、外側に弾き飛ばされてしまいます。どこで削り終わるかでも、早すぎれば不足が出るし、遅すぎれば余分なところまで削ってしまうことになります。キレイな切り屑がでてきたら、その木地と刃物の角度を維持しつつ、刃物を水平方向に移動しなければなりません。それを実現できるのは旋盤ではなく、人間の方で、腰から下の水平方向の動きになります。太極拳をしているようなゆっくりした水平方向の動きが求められます。腰から下の水平移動を伴わないで、腰を中心にして上体だけで刃物を操作すると木地はマイナス円弧状に削れるのみです。