ガウジを苦手にしない工夫
十四年前はスクレーパーが素人にとって主要な刃物でしたが、木と刃物の接触がガツン・ガツンと不快で粗削りを改善したいと思いました。また、仕上げ削りでも木端はキレイに削れても木口は上手く切れないのでサンデング(紙ヤスリで磨く。ペーパーがけをする修正)手間が大変でした。木を削る楽しさの後に、切削不良を修正するために粉だらけになる不愉快さが待っている状況でした。当時はリチャード・ラファンやデル・スタッブズといった先人たちのVHSビデオが発売されていて、テープが擦り切れるほど繰り返し見ました。ビデオではスクレーパー(平らな刃物の先端にヒゲ状のカエリを立てて刃物にしている)ではなくガウジ(丸棒に溝を掘った刃物。板を曲げた刃物もある)やチゼル(平らな板を両面から砥いで刃物にしている)を活用していて、本格的なウッドターニングにはガウジやスキュー・チゼル(先端が斜めになっているチゼルの意味)を活用するのが定石だと分かっても、砥ぎ方や使い方の理屈が一向に分からないので、突然に刃物が自分の意思と違って木に食い込んでしまうキャッチと呼ぶ事故に遭遇し、もうすぐ削り終えるというところでガウジやスキュー・チゼルの使用を敬遠したり、本来の使い方と違う砥ぎ方や使い方で苦手にしていました。
刃物は適切に砥げているか?
1999年(10年前)にアメリカのグレーザー社のボウル・ガウジ(bowl gouge,deep flute gouge)を入手したのをきっかけに苦手の克服が始まりました。現在、この刃物は社主が代わり製造・販売とも中断されて入手できない状態ですが、あらかじめ先端をサイド・グラインドという砥ぎ方で砥いで、届いた瞬間からよく切れるだけでなく、長切れする特殊鋼を使ってあり、鉛粒を詰めた軽合金製パイプハンドルとの相性もよく、刃物台に置いて、旋回する木材に触れた瞬間から安定して切削できるという風で、グレーザー社の直径13mmや16mmのボウル・ガウジが私たちの良きお手本となりました。社主のグレーザー氏は、材質に長切れする特殊鋼を採用しただけに留まらず、刃物を砥ぐためのグラインデング・ジグ(治具)やグラインデング・ホイール(砥石)についても技術的な紹介してくれましたので、その影響はカナダのワンウエー社の#2291や#2480といったグラインデング用品に反映され、世界中のウッドターナーに活用される定番商品になりました。2008年(1年前)には#2291と#2480の活用を容易にするラプターという型板(テンプレート)がアメリカのウッドターナーズ・カタログから発売され、適切な形状に短時間に砥ぎ直せる手段が一段と身近になりました。一方、スウエーデンのトルメック社から水研磨グラインダーが1973年より発売され、木工旋盤用ガウジ用のグラインデング・ジグも開発され、サイド・グラインド研磨をできるようになり、2007年に開発されたターニング・ツールセッター(TTS-100)の併用により、上述のラプターと同様にガウジのサイド・グラインドを誰でも短時間にできるようになりました。また、2009年にはトルメック社の上述のグラインデング・ジグを通常のハイスピード・グラインダーに流用できるようなアクセサリー(BGM-100)まで発売され、購入したボウル・ガウジ等を実際に使える形状にまで形を変更する時間を短く改善が続けられています。一方、日本のアマチュア・ウッドターナーは上記のような最適な道具が発売されても実際に見ることも試すこと機会もないからかもしれませんが、自己流や誰かのマネを続けて混沌としている人が多いようです。通常のハイス材の刃物では連続使用で30分で刃物は切れなくなりますので、
切れなくなった刃物では何をやっても上手く進みません。ガウジを苦手にしない工夫はグラインデング・ジグ等を併用して適切な形状で切れる刃物を常備する手段を確保することが第一です。
刃物台は傷ついていないか?
つぎに刃物台を見直してみましょう。ガウジで安定して木を削るには刃物台なしにはできません。刃物を刃物台上を滑らせて木を削るのに、刃物台上に傷や凹凸があればスムーズに刃物を操作することは適いません。ヤスリを使って傷や凹凸を除去し、途中でひっかからないいように蝋などを塗り、使用しない間に錆ないように保管時には防錆油を塗布しておきましょう。刃物台を使用するときは、切削する箇所になるべく近くに刃物台を移動して固定し、刃物のベベル(研削面、シノギ)が木地の切削面にフィットするような高さに刃物台の高さを調節してください。切り屑の形状や連続性を観察すると、刃が切れているかや切削面が良好か否かを判別できます。螺旋状にねじれた切り屑がでているときは、木端でも木口でも良好な切削面が続いている証ですが、粉が出ているようなら刃物は切れなくなっている印です。
刃物を刃物台上でどう支えているか?
ガウジという刃物の特徴は、刃物台に接する部分の形状が丸棒やプラス円弧になっていることで、比較的スムーズに動かせる一方で、刃物の水平軸回りの角度は刃物を握っている人次第だという点です。初心者では夢中になっているので、刃物に刻まれた溝(フルートと呼ぶ)が真上になっている場合を見かけます。これではスクレーパー(前述のカエリで切る刃物)と変わりがありません。残念ながら、刃物台と刃物の接地点が直上ならまだいいのですが、ずれてしまったときは、突如としてキャッチ(刃が木地に食い込んでしまう事故)してしまいます。とがった突っかえ棒を旋回する木に当てているのと変わりがありません。突っかえ棒ではなく、連なった切れ刃に沿って連続的に木がはがれて流れて行くようにするには、水平軸回りの角度を30~60度の適当な角度で保持したまま、刃物を水平方向に移動しなければなりません。注意を要するのは、削り始めと削り終わりで、前者では削る厚さが薄過ぎれば切れ止んでしまうし、厚過ぎれば刃物が木地に食い込んでしまい怖い思いをするでしょうし、ベベル(切れ刃を含む研削面、シノギ)が旋回する木地に支えられていなければ刃物を安定した軌道で維持できません。遠心力で刃物は自分の意思と違って、外側に弾き飛ばされてしまいます。どこで削り終わるかでも、早すぎれば不足が出るし、遅すぎれば余分なところまで削ってしまうことになります。キレイな切り屑がでてきたら、その木地と刃物の角度を維持しつつ、刃物を水平方向に移動しなければなりません。それを実現できるのは旋盤ではなく、人間の方で、腰から下の水平方向の動きになります。太極拳をしているようなゆっくりした水平方向の動きが求められます。腰から下の水平移動を伴わないで、腰を中心にして上体だけで刃物を操作すると木地はマイナス円弧状に削れるのみです。

